I-Method

6-11 中間処分3

生産性のジレンマ

 生産性を上げるべきか、下げるべきかということが、ジレンマになるだろうか。ちょっと考えると、施設の稼働率は高いほどいいのだから、生産性はジレンマにはなりえないように思われるかもしれない。
 しかし、産廃処理施設は壊れやすい。焼却炉の稼働率を上げると、炉材のセラミックが劣化し、早期の交換が必要になる。このコストはばかにならない。廃棄物は硫黄分や塩素分を多く含むので、大量に燃やすと酸性物が金属を腐食しやすい。もしも炉に穴が空いて冷却水漏れしたら、改修には多大な費用と時間がかかる。最近は高温炉が流行だが、燃焼温度が高いほど、炉は傷みやすい。とくに燃焼温度が1200度を超えるような高温炉や溶融炉では、酸素を使う場合があり、炉の傷みが早い。
 焼却炉はもっともデリケートな施設だが、他の施設でも稼働率を高めれば寿命が短くなるのは同じだ。
 逆に稼動しないのもいけない。運転が完全に休止すると、金属のかたまりの処理施設の多くは、1年で錆び付いて動かなくなる。再始動するには莫大な改修費がかかるため、施設全体を窒素封印して保全している休止施設もある。

 稼働率を上げて利益を上げれば、施設の更新・改修コストはまかなえると思うかもしれないが、廃棄物処理施設は、廃棄物処理法第15条の許可施設であり、大修繕や更新には許可が必要な場合がある。
 新規の許可となると、許可申請の前に事前協議を義務付けている自治体が多く、時間がかかる。環境アセスメント、都市計画協議なども必要になる。
 こうした許可の面倒や時間、場合によっては許可にならないリスクや住民による行政訴訟への発展のリスクを考えると、生産性を下げてでも施設を長持ちさせたほうがいい。これが稼働率が高ければいいと言えない生産のジレンマである。

外注のジレンマ

 外注とは、受注した廃棄物を自社で中間処分せず、他社に再委託することを言う。いわゆる下請けである。
 廃棄物処理法では、未処理の廃棄物を排出者にことわりなく再委託することは禁止行為であり、許可取消が相当とされている重大な違反になり、刑事罰もある。
 現在は厳しく規制されている再委託だが、かつては再委託に罰則がない時代があった。この時代には、受注できるだけ受注し、その大半を再委託するのがもっとも儲かる仕事だった。
 外注の粗利率(中抜き率、ピンハネ率)は6割にもなっていた。つまり100万円で受注した産廃を、なんら処理することなく、40万円で再委託していたのである。
 実は現在でも、こうしたタイプの再委託が、収集運搬の処分費一括受注という形で脱法的に行われている。これを「外注営業」、「同業者営業」という。
 同業者営業は、再委託違反に問われて、一発許可取り消しになるかもしれない危うい営業である。

 中間処理残渣を、他の中間処分場や最終処分場に二次処理委託することも外注である。これは再委託違反には問われないが、コスト負担が大きい。
 かつては自社専用の小規模最終処分場を設置する中間処分場が多かったが、現在は法令改正・通達変更により、無許可で小規模自社最終処分場を利用できなくなった。このため、最終処分量をできるだけ少なくし、処理を内製化する中間処分場が増えている。内製化によって、リサイクル率の向上とコストの削減の一石二鳥をねらうことができる。
 だが、設備投資をすることなく受注量を増やせる外注のメリットも捨てがたい。
 設備投資をして内製化率を高めるか、設備投資をせずに外注に依存するか、これが外注のジレンマである。

リスクのジレンマ

 廃棄物処理は、きわめて事故リスクの高い業種で、全製造業中事故率はトップで、平均の10倍と言われる。当然、労災保険料も高い。リスクを下げるには、設備を最新のものに更新して手作業を減らし、人員を増やし、労働時間を短縮すればいい。当然、コストはアップする。リスクとコストは相反するのだ。これがリスクのジレンマである。
 一般の製造業の経営では、利益率が高ければ高いほどよい評価になるだろう。しかし、事故リスクの高い産廃処理業では、リスク低減のためのコストを負担していない企業は、いくら利益率が高くてもよい企業とはいえない。

 いったん事故を起こせば、廃棄物処理法上の指導、処分があるだけではなく、警察署、消防署、労働基準局、保健所(危険物取締り)など、さまざまな機関の検査をうけ、何ヶ月も操業が止まってしまうことがある。死亡事故を起こせば、社長や監督者が業務上過失致死罪で逮捕され、会社が消滅するかもしれない。

 廃棄物のリスクは、次の式で計算できる。

  廃棄物の固有リスク×保管量×保管期間×保管・処分方法による修正率

 固有リスクとは、爆発性、燃焼性、感染性、腐食性、有毒ガス発生、発がん性、腐敗や悪臭などである。
 固有リスクを下げることはできないから、保管量の削減、保管期間の短縮、適正な保管・処分によるリスク低減を図らなければならない。適正な保管・処分とは、分別保管と単独処分である。混合保管、混合処分(マルチ処分)を行えば、コストは削減できるがリスクは高まる。

 廃棄物処理のリスクは、排出事業者の工場で廃棄物が発生・保管されたときから始まっている。このため、最近では顧客の工場に人材を派遣して、工場内での廃棄物の発生段階からリスク低減をコンサルティングする中間処分業者も増えてきている。

 次回は中間処分のキャッシュフローの計算例を解説します。

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