I-Method

6-6 積替保管1

積替保管のパラドクス

 産業廃棄物の収集運搬業は、貨物運送業の特殊な業態であると考えることができるので、物流業に一般的に通用しているキャッシュフロー分析の手法を応用できる。
 しかし、積替保管場が生み出すキャッシュフローは、倉庫業とは決定的にことなる。
 倉庫業では、保管料と保管期間に応じて、キャッシュフローが生み出される。ところが、積替保管は、倉庫業に相当するようなキャッシュフローを生み出さない。「積替保管料」という料金を請求していないのだ。どんなにたくさん保管しようと、どんなに長期間保管しようと、積替保管はタダである。
 キャッシュフローを生み出さないはずの積替保管がどうして儲かるのか?これが積替保管のパラドクスである。
 実際には、積替保管場は積み上げれば積み上げるほど、キャッシュフローを生み出す。このパラドクスを解く鍵は、廃棄物の商品特性にある。
 そしてこのパラドクスは、不法投棄の構造に深くかかわっている。

 基礎編3-5「入庫が売上に」を読み返してもらえばわかるように、廃棄物処理業では、一般の製造業と違って、廃棄物を入庫しただけで、なんら処理に着手しなくても、売上が立っている。
 積替保管場は、廃棄物処理業から「入庫」という仕事だけを分離したような業態である。つまり、考えようによっては、積替保管場ほど儲かる業態はない。

積替保管のキャッシュフローの源泉

 保管料を請求しない積替保管場のキャッシュフローの源泉は、「収集運搬料」か「処分料」のどちらかである。
 前者だとすれば、「入庫が売上になる」というマジックが使えない。
 むしろ積替保管場を経由した収集運搬は、二重運搬になるから、直行運搬に比較して、コスト高の要因になる。
 それでも積替保管にメリットがあるとすれば、小型車から大型車への積替えによる長距離運搬の効率の向上である。これは実は物流業の「トラックヤード」に相当する。
 物流業では、積替えが頻繁に行われる。小型車から大型車へ、そこから船舶や飛行機へ、さらにまたトラックへと、何度も何度も積み替えられて貨物が目的地に届く。積替えはコスト要因なので、いかに効率的に積替えを行うかは、とても重要であり、ヤードやドッグの最適化がはかられている。積替えのもっとも重要なポイントはスピードである。

 おそらく廃棄物処理法の法案を考えた人は、積替保管を物流ヤードのようなものと想定していたのだろう。
 だが、実際にはそうならなかった。
 誤算の最大の理由は、収集運搬業に一般化していた「処分料一括受納」だった。
 廃棄物処理法では、廃棄物の排出業者は、収集運搬業者と、処分業者のそれぞれと直接契約することが義務づけられており、収集運搬業者が包括的な契約を結ぶことができない。しかし、収集運搬業者が処分料を代理受納することまで禁止する明文の規定はない。
 多くの排出業者、とくに中小の排出業者には、収集運搬業者しか営業に来ないので、収集運搬業者を処分業者の窓口として使い、「処分料一括受納」を便利な契約方法として利用してきた。今日でも、この実情は変わらない。

持続可能な不法投棄

 処分料一括受納は、収集運搬業のキャッシュフローを飛躍的に拡大するブースターとなった。
 一括受納した処分料は、厳密には「預かり金」か「前受金」なのだが、多くの業者は「売上高」に計上している。この場合、後で処分場に支払うことになる処分料は「外注費」になる。
 預かり金なら、収支はゼロだが、売上高と外注費は同額とは限らない。
 産廃処理業界では、収集運搬業者が一括受納した処分料から手数料を割り引くことを「中抜き」と呼ぶ。その手数料率は、20〜30%と高率である。このほか、単なる取引の仲介者(紹介者)にも手数料を払うことがあり、これは1kg1円とか、1立方メートル500円といった定額になっている。仲介料は中抜率に比べれば低率だが、ちりも積もれば山となる。
 中抜きが可能になると、収集運搬業の収益率は飛躍的に高まる。
 さらにそのメリットを最大化にするのが積替保管である。

 積替保管場に搬入した時点では、「売上高」だけが計上されており、まだ「外注費」が発生していない。つまり、この時点では、一括受納した処分料は100%キャッシュとして手元にあるのだ。
 これが積替保管場のキャッシュフローのマジックなのである。
 つまり、積めば積むほど、積替保管場のキャッシュフローは増えるのだ。これは物流ヤードとは決定的に異なるキャッシュフロー構造だ。
 物流ヤードでは積替えのスピードがキャッシュフローの源泉だが、積替保管ではむしろ廃棄物を滞留させせたほうがキャッシュフローの面では有利なのだ。

 さらにキャッシュフローを増やすもう1つのマジックが「持ち込み」だ。持ち込みとは、積替保管場を有する収集運搬業者が、自社の車両で収集運搬せず、排出者の車両で持ち込ませることで、建設系廃棄物を中心に広範に行われている。建設業者にとっても、自社の車両を使える持込は好都合だ。
 持込は収集運搬費用がかからない。つまり、収集車両を持たない持込専門の積替保管場なら、キャッシュフロー率は100%となるのだ。

 結果として、廃棄物を積むだけで出さない積替保管が、短期的には一番儲かることになる。私はかつてこれを「つみっぱなし保管」と揶揄して呼んでいた。もちろん、これは最後には不法投棄現場になってしまう。「積み逃げ不法投棄」である。
 儲かっている積替保管場の多くは、積み逃げないまでも、保管基準(保管場所、保管量、保管期間、保管品目、保管方法)を守っていない。守っていたのでは儲からない。つみっぱなし保管とは、「当面は持続可能な積み逃げない不法投棄」なのである。

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