7-4 処理前在庫
処理前在庫量の把握
優良化推進事業により情報公開が行われ、自治体から優良性認定を受けている業者なら、分析に必要なデータは揃っている。ただし、実際に公開データを検証してみると、Iメソッドベーシックバージョンの基本4情報スクリーニングに合格する業者は2割程度という結果になった。不足データの第1位は売上高だった。売上高は、Iメソッドにとってもっとも重要な情報の1つだが、現地調査に必要ではない。現地調査の際に入手できればベターだが、提出は任意である。
公開情報で得ることができず、現地調査でぜひとも把握して欲しい情報は、在庫量である。
公開データに搬入量と処理量があれば、未処理在庫量は
式1 未処理在庫量=搬入量-処理量
として求めることができる。ところが、搬入量=処理量としている業者が多く、計算上、在庫量は0になる。だが、在庫0の業者など見たことがない。
さらに、収集運搬量と搬入量が等しいとは限らない。自車運搬量(=収集運搬量)のほかに、他車運搬量があり、他車運搬量のうち排出事業者による持込はマニフェストがないことも珍しくない。さらにさらに、自車運搬量も、自社への運搬量と他社への運搬量がある。つまり、在庫量を公開データから計算することは難しい。
幸いなことに、在庫量を現地調査で把握することは容易だ。運搬量や処理量はフローだから、業者の記録を信頼するしかない。二重帳簿を見抜くことは、権限のある検査官だってなかなか難しいことだ。ところが、在庫量はストックだから見ればわかる。在庫量を見ずして何を見るのかと言いたいくらいだ。
在庫量は体積で求め、重量に比重換算する。体積は、
式2 在庫量=底面積×高さ÷2
で求める。2で割るのは近似である。円柱状(角柱状)なら1、円錐状(角錐状)なら3で割る。底面積は保管場の面積を用いればいいし、高さは目分量で身長の何倍かを見ればいい。いちいち巻尺で計測するほどの正確性は必要ない。
もしも業者が在庫を記録をしていれば、計測値と比較してみる。大抵の業者は毎月初の在庫量を把握(棚卸)しているが、毎日の在庫は正確にはわからないことが多い。
在庫関連指標
許可証や公開データを用いれば、在庫量を分析する次のデータが把握できる。これも現地で正確かどうか検証しておく。
保管能力(許可証に記載されているが、保管場所違反が多いので、かならず現地で確認する。)
運搬能力(公開データにある車両積載能力の合計)
処理能力(許可証に記載されているが、複合処理施設の場合は、後述するライン検証が必要)
運搬量(公開データにある)
処理量(公開データにある)
平均単価(売上高と処理実績から計算するが、兼業売上高があると正確に出ない)
廃棄物品目別比重(業者が実測していれば参考にする。実測値がない場合は軽量物0.2、重量物1.0、混合物0.7で近似する。)
以上のデータから次の各指標を計算することができる。なお、比重換算で単位をそろえる必要がある。
【積替保管場の場合】
式3 在庫率 = 在庫量 ÷ 保管能力
式4 理論的在庫期間 = 保管能力 ÷ 運搬能力 ※積載効率1.0 車両回転数1.0と仮定
式5 在庫期間 = 保管量 ÷ 1日運搬量
式6 在庫回転数 = 稼働日数 ÷ 在庫期間
式7 在庫売上高 = 在庫量 × 在庫回転数 × 平均単価
【中間処理場の場合】
式8 在庫率 = 在庫量 ÷ 保管能力
式9 理論的在庫期間 = 保管能力 ÷ 処理能力
式10 在庫期間 = 保管量 ÷ 1日処理量
式11 在庫回転数 = 稼働日数 ÷ 在庫期間
式12 在庫売上高 = 在庫量 × 在庫回転数 × 平均単価
【積替保管場を有する中間処理場の場合】
補正1 保管能力、在庫能力、在庫量は積替保管場と中間処理場の合計とする。
補正2 在庫期間や在庫回転数は、処理能力、処理量のみを用いる。
ただし、他社処分場への運搬割合が多い積替保管場は、別個の施設として分析する。
保管基準
行政の検査の場合は、積替保管の保管期間基準7日、中間処理の保管期間基準14日を超えている場合は、要指導となるが、排出事業者の現地調査の場合は、この基準に厳密にこだわる必要はないが、長期保管は当然、保管量オーバーであり、保管基準違反となる。
なお、保管期間が基準以内であっても、1日でないかぎりは、入庫した日にマニフェストに処理済みスタンプを押すことはマニフェストの回付義務違反(未処理回付)となるので、要チェックである。(入庫日に機械的にスタンプを押し、即日回付している業者が多いのが実態である。)
在庫している廃棄物の性状については、分別保管が徹底されているか、保管場所違反、許可品目外保管がないかどうかもチェックポイントになる。
場外保管(無許可場外保管場)は、重大な違反で、許可が取り消された業者もある。入荷量、在庫量、処理量を定量的に検証していけば、大量の場外保管は数値の矛盾として検出できるはずだ。だが、場外保管まで、排出事業者の現地確認で発見せよとは言えない。これは行政の立入検査で発見すべきである。
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