I-Method

3-5 入庫が売上に

第3の商品特性 入庫しただけで売上が立つ

 通常の製造業では、原料を仕入れ、加工し、販売して初めて売上が立つ。部門別会計を実施している場合、仕掛品在庫を部門別売上として立てる場合もあるが、企業全体としては売上ではなく、キャッシュフロー上は仕入コストと工賃がマイナスになっている。
 ところが、廃棄物処理業では、廃棄物が入庫しただけで、処理に着手していなくても売上が立っており、キャッシュフローもプラスになっている。キャッシュフローさえ増えればなにをやってもいいなら、どんどん在庫を積み上げ、何も処理しないほうがいい。処理すれば処理費や残渣処分費がかかるからである。
 しかし、在庫をどんどん積み上げ、やがてヤードが満杯になると、それ以上在庫を増やせなくなる。このとき、夜逃げをすれば、それまでのキャッシュフローがそっくり利益になる。これが積逃型の不法投棄である。夜逃げをせずに事業を継続しようとするなら、在庫を減らさなければならない。しかし、正規の処理ではもうおいつかないし、同業者に再委託したのでは利益が出ないので、料金の安い一発屋(無許可のダンプ)に頼んで、夜中にこっそり持ち出してもらうことになる。これが流出型の不法投棄である。
 ヤードが積み上がっている状態は、産廃処理業者にとっても不良在庫である。ただ、産廃処理業者の財務分析をする場合には、不良在庫がキャッシュフローをプラスにしているという事情を考慮する必要がある。不良在庫によるキャッシュフローがどれくらいあるかは、

 在庫キャッシュフロー CFs=在庫量×受注単価

によって簡単に計算できる。たとえば2千トンの不良在庫があり、受注単価が3万円なら、この不良在庫が6千万円のキャッシュフローを生み出しているということになる。

 産廃処理業者の現地調査をしたとき、なによりも先に注目してほしいのは在庫量や在庫の管理状態である。過剰な在庫や管理状態の悪い在庫、たとえば未分別在庫、野天保管、在庫品変質、ラベル喪失などが、問題になる。こうした不良在庫がいずれ不正行為の端緒になる。というより不良在庫はすでに保管基準違反である。この状態が長期間続けば、さらに問題の大きい処理規準違反、委託基準違反、再委託基準違反といった不正行為につながっていくことは時間の問題である。不良在庫それ自体も問題だが、不良在庫が減少したときには、問題が解決したのではなく、無許可業者への流出など、さらに問題が大きくなっている可能性もある。

3つの商品特性と不法投棄

 以上、検討してきたように、廃棄物がマイナスの資産であり、価格が安いほど価値が高いこと、リターンがないため処理委託先が何をしてもわからないこと、入庫が売上であり、在庫がキャッシュフローを生み出していること、この三つの商品特性が、産廃処理のさまざまな不正ビジネスの土壌になっていることは明らかである。
 第一の特性「マイナス価値」の問題は、再資源化によって解決できる。第二の特性「リターンがない」は、トレーサビリティツールによって対応できる。第三の特性「在庫が売上になる」ことこそ、実は廃棄物処理業の本質である。そこから派生する問題は、情報公開制度によって監視していかなければならない。

 次回から解説していくIメソッドによる3つのバージョンの分析手法は、これら廃棄物の三つの商品特性に起因する産廃処理業者の不正行為を発見するために開発されたものである。だが、不正行為を発見するだけにとどまらず、これらの商品特性を活用して適正な利益を上げるためのにも応用できる。とくに最後に解説することになるIメソッド・プロフェッショナルバージョンは、キャッシュフロー分析を中心とした財務コンサルティング手法となることを最初から目的にしている。

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