I-Method

1-3 iメソッドの発明

一秒で不法投棄がわかる男

 iメソッドの原点であるオーバーフロー分析は、こうした産廃業者のオーバーフロー受注と再委託の問題を、会計書類検査によって発見する手法として開発された。

 オーバーフロー分析で最初に注目するのは、売上高である。オーバーフロー受注をすれば売上高が過大になるからである。一方、再委託が多い場合には外注費が過大になる。オーバーフロー状態の業者では、売上高の過大と外注費の過大がセットで現れるため、オーバーフロー比率(売上高と処理能力のバランス)、外注比率(売上高と外注費の比率、あるいは受注量と外注量)が、とくに重要な指標となった。
 著しいオーバフロー受注業者では、オーバーフロー比率は10倍以上、外注比率は売上高ベースで6割以上、受注量ベースでは9割以上になっていた。

 私は不法投棄に介在した業者に立ち入ると、処理ラインの実際の流れを点検してどこにオーバーフローが生じやすいかをつかんでから事務所に入り、最初から決算書を点検した。決算書の売上高を一瞥するなり、不法投棄の疑いがあるかどうかを、検査チームのメンバーにブロックサインで送ったので、メンバーからは一秒で不法投棄がわかる男と呼ばれていた。
 仕掛けは簡単だった。

 秒速算式 処理能力1日10トンあたり ≒ 売上高年間1億円 (1トン3万円×10トン×300日)

 細かなことはさておき、この単純な算式が頭にあれば、売上高が処理能力に比較してどの程度過大なのか1秒でわかるのだ。この話を聞いた某テレビ局のディレクターは「コロンブスの卵ですね」と評してくれたが、流儀は異なれど、売上高から業務量を推定している産廃Gメンは、他の地方自治体にもいたから、私の発明というほどすごいものでもなかった。
 もしも産廃以外の業務による売上高もある場合には、社長や工場長と談笑しながら、「ところで産廃は売上高の何割くらいを占めてるんですか」と、必要な情報をそれとなく聞きだした。私のチームの仲間は、むしろこの話術に関心してくれた。
 オーバーフロー受注の実態を証明するには、売上高だけでは不十分で、帳簿や伝票をすべて調べ上げる必要があった。そのための検査時間は標準で5時間と決めていた。オーバーフロー受注が証明できれば、処理できないはずの廃棄物がどこへ消えたのか追及するのはむしろ容易だった。しばしば検査は日暮れまで続いた。これは定時になれば役所へ帰るだろうと高を括って資料を出し渋る社長へのプレッシャーだった。私の現役産廃Gメン時代の1回の検査時間の最高記録は11人で9時間だった。相手をした社長は、私に会社をつぶされると本気で怖がったのか、翌朝一番に平身低頭で挨拶してきた。
 会計書類検査に習熟すると、脱税もしばしば発見するようになった。数字と現場の両方をつきあわせて業務の適法性を確認する検査は、税務署よりも数段厳しかった。

 処理能力を超えたオーバーフロー受注が処理業者経由の大規模不法投棄の最大の原因だという確信と、会計書類検査によるこの確信の実証が、その後の石渡の活動とiメソッド開発の原点となった。

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