I-Method

2-2 劣化型構造化

劣化型構造化から特化型構造化への転換

 どの業界にも様相は異なれど階層構造があり、それが大企業と中小企業の格差、元請と下請の格差の原因となっている。何もかもが平等でないと気がすまない人は、これを問題構造だと一刀両断するが、成熟した業界が階層化することには必然的な面がある。
 階層化した業界では、収益を少数の大企業が独占し、大多数の中小企業の分け前はわずかである。この逆転現象が格差だと指摘されている。しかし、実際にはほとんどの業界で、大企業のシェアがそんなに独占的なわけでもない。
 製造業や建設業で見られる一般的な元請・下請構造のほか、コンビニや外食・中食産業ではフランチャイズチェーン構造、保険業界では代理店構造が普及している。規模と収益の関係はどの構造でも似たりよったりである。流通では一時問屋、二次問屋の階層構造ができており、古紙や金属スクラップなどの静脈物流でも、地場で小さく集める古物商、廃品回収業、自動車解体業と、大きくロットをまとめて製紙工場や電炉などの需要者に供給する古紙問屋や金属問屋、さらに大口の輸出に向ける資源商社の階層ができあがっている。
 階層化が成熟した業界において、大企業と中小企業は市場で果たす役割もセグメントも異なっているため、大企業は大企業、中小企業は中小企業と競争しており、大企業と中小企業が競争することはまれである。まだ階層化が完成していない未成熟市場では、規模にかかわらない競争が生じ、ときに急成長するベンチャー企業が出現する。
 一般廃棄物処理業界は、市町村ごとの地域セグメントに分割されているため、小さな自治体では事実上ほとんど競争が起こらない。産廃処理、リサイクル、資源ごみ輸出では地域セグメントが存在せず、許可の単位である都道府県域を超えて事業者間の競争が起こる。

業態別構造

 廃棄物処理は収集運搬、中間処理、最終処分、リサイクル、輸出の5業態に分かれており、これは業態セグメントだといっていい。廃棄物処理法の適用される最初の3業態では、同じ業態内での元請下請の関係、すなわち収集運搬から収集運搬、中間処理から中間処理といった受委託は、業務の実態が伴わない場合には、再委託禁止にかかる。ただし、A地点からB地点までの運搬とB地点からC地点までの運搬を分割することや、中間処理の破砕処理と焼却処理を分割することは、業務の実態があるので、再委託禁止にはかからない。
 再委託禁止のため、産廃処理業界では、経営規模別のセグメント分割、あるいは受注と現業の分業が起こらず、大手業者と中小業者が同じ土俵、同じ価格で戦っている。価格さえ下げれば、中小業者が大手業者のシェアを奪えるのだ。しかし、現実はそう単純ではなく、実態としては闇再委託が広範に行われてきたし、現在も行われている。
 他の業界では一般的な元請下請の関係が、なぜ産廃処理業界では禁止されているのか。それは産廃処理業界に劣化型構造化があるからである。

特化型構造化への転換

 劣化型構造化とは、経営規模の階層が下がるにしたがって、あるいは元請から下請けに向かって、業者のノウハウやコンプライアンスが劣化していく構造のことである。劣化が法律の許容する限度を超えると、違法営業となる。産廃処理の場合には、劣化型構造化の末端に不法投棄業者が出現する。同じような劣化型構造化により、建物解体業界には無許可・無届け解体を請け負う一人親方、金融業会には闇金やシステム金融がある。
 不法投棄の根本原因をなくすには、劣化型構造化を特化型構造化に改め、業界構造を健全化しなければならない。
 特化型構造化とは、自動車部品メーカーのように下請けに行くにしたがって業務の内容が専門化したり、フランチャイズチェーンのように地域化したり、保険代理店のようにマンパワーの比重が増したりする構造化である。
 ところが再委託が一律に禁止されている現状は、産廃業界が特化型に構造化することが妨げられ、結果として劣化型構造化の問題だけがクローズアップされることになる。
 そうはいっても今すぐには再委託を解禁できないため、特化型構造化を代替するものとして進展しているのが、産廃処理業者のグループ化やネットワーク化、コンサル系会社によるマッチング業務(仲介)や優良業者データベースである。これらは再委託禁止を回避しながら、受注と現業を分割する商社業務を実現するため、受委託契約は従来どおり直接締結するが、その前段階で、第三者的企業や組合が、最適業者の選別・紹介を行うするビジネスモデルである。

業界再編

 現在、産廃業界は再編のさなかにある。再編とは経営規模の拡大を意味する。現在、産廃業界のトップランナーの経営規模は年商300億円程度まできている。最王手が1000億円を突破するのは時間の問題だろう。しかし、さらなる再編を進めていく過程で、階層化や構造化の議論は避けられなくなる。
 劣化型構造化が存在するままでいくら再編が進んでも、特化型構造化への構造転換ができなければ、業界が優良業者と劣後業者に二極化してしまうだけである。大手業者だけがどんなに独走しても、劣化型構造化がそのままなら、産廃業界がかかえる問題を根本的に解決できない。これは似たような構造を持っている解体業界、残土業界、市中金融業界でも同じである。

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