I-Method

4-9 トレンド分析

トレンド分析とは

 トレンド分析は、財務データを一つだけとりあげて評価せず、ダイナミックな関連性と方向性においてとらえる分析である。複数年度の財務諸表からトレンド分析をするには、少なくとも3期分、できれば5期分以上を入手する必要がある。分析する期間によって、結果がまったく違ったものになることがある。トレンドは売上高、営業利益、長期負債、債権回収日数など、さまざまな財務指標で計算することができる。
 一つの指標のトレンドを見るには、グラフにするのが視覚的にわかりやすい。全費目の関連性とトレンドを一覧で比較するためには、年度ごとの決算額を並べて増減額を計算した表を作成する。とくに貸借対照表の期別比較表を、会計学では「資金表」と呼ぶことがある。資金表の増減額の欄は、貸借対照表と同様に貸方借方の合計額が一致する。たとえば機械設備が1億円増額していれば、現金預金が1億円減額するか、または固定負債か資本(利益剰余金)が1億円増額しているはずである。

 産廃処理施設のトレンド分析においては、許可を前提としているという特殊性を考慮する必要がある。こうした着眼点をいくつか例示してみる。後段のコメントはあくまで推理の一例である。

トレンド分析の例示

 売上高が急増している → 許可証に変更がないとすれば、事業が急拡大するのはおかしい
 売上高が伸びているのに利益が伸びていない → 外注(再委託)が負担になっている
 売上高が伸びているのに、固定資産が増えていない → 外注が増えている
 売上高が減っているのに、外注費が増えている → 施設が故障した
 売上高が増えているのに、販売費及び一般管理費が増えていない → トンネル再委託をしている
 固定資産が増えている → 許可証に変更がないとすれば、無許可で施設を新設または更新した
 長期負債と支払利息が増えている → 新処分場建設ための資金調達ならやむをえないが運転資金ならよくない
 土地が増えている → 新処分場計画に着手した
 建設仮勘定が計上されている → 新処分場を着工した
 関連会社との資本取引が増えている → 関連会社の経営が苦しい
 関連会社への売上が増えている → 関連会社との偽装取引をしている

無限の発展性

 このように、財務諸表から読み取れるトレンドが、許可とどんな関係にあるかを読み取ることによって、単なる業績評価を超えて、業務実態の適法性を判別することができる。
 ここでは財務諸表だけのトレンド分析を試みたが、他のデータも加えて、平均受注単価、平均外注単価、労働者一人当たり売上高、役員報酬単価、在庫価額(廃棄物の場合は未処理廃棄物在庫額は前受金と等しい)などのトレンドを分析することもできる。

 トレンド分析は財務会計の知識、廃棄物処理法をはじめとする関連法規の知識、産廃処理業務の技術や実務の知識の総合力が試されるものであり、名人芸的な域にまで高めることができ、その可能性には限界がない。
 ちなみに石渡がトレンド分析で将来伸びると予測した業者はたいてい業績を倍増させ、逆に改善はむずかしいと匙を投げた業者はたいてい経営不振におちいるか、違法行為が発覚して廃業することが多かった。きちんとトレンドを分析すれば、将来予測はかなり高い確率で当たるものである。

先頭のページ 前のページ 次のページ 末尾のページ
I-Method Webセミナーへのへのご意見・ご提案・ご感想をお待ちしております。